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万葉植物 あざぢ、つばな、ちばな   

10月13日
読了時間: 6分


  • 朝露に濡れる美しい白い花穂をつけた万葉植物「茅(チガヤ)」の様子
  • 青々と生い茂る葉が美しい万葉植物「茅(チガヤ)」の様子
  • 秋になり赤く美しく色づいた万葉植物「茅(チガヤ)」の葉の様子





基本情報

和歌中での植物名

あざぢ、つばな、ちばな   

和歌中での植物名表記

茅、茅花   

和名

カヤ・茅   

分類

イネ科、カヤツリグサ科   

学名

Imperata cylindrica

万葉集内登場回数(首)

27   




植物の特徴


茅(チガヤ)は、日当たりの良い野原や堤防、空き地などに広く群生するイネ科の多年生草本植物です。地下茎を伸ばして旺盛に繁殖し、草丈は30〜80cm程度に達します。春から初夏にかけて茎の頂部に白い絹毛に包まれた柔らかい花穂(茅花)をつけます。この咲き始めの若い花穂は噛むとほのかな甘みがあり、古くから子供のおやつなどとして親しまれてきました。また、草丈が低く群生している状態のものは「浅茅(あさぢ)」と呼ばれます。

   



文化史・解説


古代における茅は、屋根を葺く材料(茅葺き)や草履・俵などを編むための身近で重要な生活資材でした。生命力が強く野原一面に生い茂ることから、『万葉集』においては寂涼とした風景の象徴としての「浅茅原」や、人目を避けるための「標(しめ)を結ぶ」対象として多く詠まれています。

   

また、春に萌え出る若い穂「茅花(つばな・ちばな)」は、その甘みと愛らしい姿から親しまれ、紀女郎と大伴家持の歌のやり取りに見られるような親しい者同士の贈答や戯れ歌の題材ともなりました。秋になると葉が赤く染まる(紅葉する)様子も「浅茅色付く」として詠まれ、四季の移ろいを表す植物として万葉人に親しまれました。

   



万葉集における和歌と現代語訳

巻3-333 大伴宿禰旅人

読み下し文


浅茅原つばらつばらにもの思へば故りにし郷し思ほゆるかも

現代語訳


浅茅が生い茂る原でしみじみと物思いにふけっていると、昔住んでいた故郷のことがしみじみと思い出されることだ。

巻6-940 山部宿禰赤人

読み下し文


印南野の浅茅押し並べさ寝る夜の日長くあれば家し思はゆ

現代語訳


印南野の浅茅を押し倒して敷き、旅寝する夜の日数が重なると、恋しい我が家のことが思い出されてならない。

巻7-1179 作者未詳

読み下し文


家にしてあれは恋ひむな印南野の浅茅が上に照りし月夜を

現代語訳


家に帰ったらきっと恋しく思い出すことだろう。印南野の浅茅の上に明るく照っていたあの月夜のことを。

巻7-1342 作者未詳

読み下し文


山高み夕日隠りぬ浅茅原後見むために標結はましを

現代語訳


山が高いので夕日が隠れてしまった。浅茅原よ、後で再び見るために標を結んでおけばよかったのに。

巻7-1347 作者未詳

読み下し文


君に似る草と見しよりわが標めし野山の浅茅人な刈りそね

現代語訳


あなたに似ている草だと思って私が標を結んで占有した野山の浅茅です。他の人はどうか刈り取らないでください。

巻8-1449 大伴田村大嬢

読み下し文


茅花抜く浅茅が原のつぼすみれ今盛りなりあが恋ふらくは

現代語訳


茅花を抜く浅茅原に咲くつぼすみれがいま盛りであるように、私のあなたへの恋心はいま最高潮に達しています。

巻8-1460 紀女郎

読み下し文


戯奴がためわが手もすまに春の野に抜ける茅花そ食して肥えませ

現代語訳


あなたのために私の手も休めずに春の野で抜いた茅花ですよ。召し上がってどうぞ太ってください。

巻8-1461 紀女郎

読み下し文


昼は咲き夜は恋ひ寝る合歓木の花君のみ見めや戯奴さへに見よ

現代語訳


昼は咲き夜は恋い慕って眠る合歓の花を、あなた一人だけが見てよいものでしょうか。あなたも一緒にご覧なさい。

巻8-1462 大伴宿禰家持

読み下し文


わが君に戯奴は恋ふらし賜りたる茅花を食めどいや痩せに痩す  

現代語訳


我が君(あなた)にこの私は恋をしているようです。いただいた茅花を食べても、益々痩せるばかりです。

巻8-1514 穂積皇子

読み下し文


秋萩は咲くべくあるらし我がやどの浅茅が花の散りぬる見れば

   

現代語訳


秋萩はもう咲いているに違いない。我が家の庭の浅茅の花が散ってしまったのを見ると。

No.11 巻8-1540 聖武天皇

読み下し文


今朝の朝明雁が音寒く聞きしなへ野辺の浅茅そ色付きにける

現代語訳


今朝の明け方、雁の鳴き声を寒々と聞くと同時に、野辺の浅茅がすっかり色づいたことだ。

巻8-1578 安倍朝臣虫麻呂

読み下し文


今朝鳴きて行きし雁が音寒みかもこの野の浅茅色付きにける

現代語訳


今朝鳴きながら飛んで行った雁の声が寒々しいからであろうか、この野の浅茅が赤く色づいていることだ。

巻8-1654 大伴坂上郎女

読み下し文


松陰の浅茅が上の白雪を消たずて置かむことはかもなき

現代語訳


松の木陰の浅茅の上に積もった白雪を、消さずにそのまま置いておく方法はないものであろうか。

巻10-1880 作者未詳

読み下し文


春日野の浅茅が上に思ふどち遊ぶ今日の日忘らえめやも

現代語訳


春日野の浅茅の上で、気心の合った仲間と楽しく遊ぶ今日という日を、どうして忘れることができようか。

巻10-2158 作者未詳

読み下し文


秋風の寒く吹くなへ我がやどの浅茅が本にこほろぎ鳴くも

現代語訳


秋風が寒々と吹くとともに、我が家の浅茅の根本でコオロギが鳴いていることだ。

巻10-2186 作者未詳

読み下し文


秋されば置く白露に我が門の浅茅が末葉色付きにけり

現代語訳


秋になると降り置く白露のために、我が家の門の浅茅の葉先がすっかり赤く色づいたことだ。

巻10-2190 作者未詳

読み下し文


我が門の浅茅色付く吉隠の浪柴の野の黄葉散るらし

現代語訳


我が家の門の浅茅が色づいている。吉隠の浪柴の野の紅葉も散っていることだろう。

巻10-2207 作者未詳

読み下し文


我がやどの浅茅色付く吉隠の夏身の上にしぐれ降るらし

現代語訳


我が家の庭の浅茅が色づいている。吉隠の夏身のあたりの上に、時雨が降っているのだろう。

巻10-2331 作者未詳

読み下し文


八田の野の浅茅色付く愛発山峰の沫雪寒く降るらし

現代語訳


八田の野の浅茅が色づいている。愛発山の峰には泡雪が寒々と降っているらしい。

巻11-2466 柿本朝臣人麻呂之歌集

読み下し文


浅茅原小野に標結ふ空言もいかなりと言ひて君をし待たむ

現代語訳


浅茅原の小さな野に標を結ぶように、あてにならないあなたの口約束を、どういう言葉だと信じて私はあなたをお待ちすればよいのでしょうか。

巻11-2755 作者未詳

読み下し文


浅茅原刈り標さして空言も寄さえし君が言をし待たむ

現代語訳


浅茅原を刈り取って標を立てるように、当てにならない口約束でも私に寄せてくださったあなたのお言葉を信じてお待ちいたしましょう。

巻11-2835 作者未詳

読み下し文


ま葛延ふ小野の浅茅を心ゆも人引かめやも我がなけなくに

現代語訳


葛の這う小野の浅茅を、誰も自分勝手に引き抜くことができようか。私が死んだわけでもないのに(私の愛しい人を他人が奪うことなどできようか)。

巻12-3050 作者未詳

読み下し文


春日野に浅茅標結ひ絶えめやと我が思ふ人はいや遠長に

現代語訳


春日野の浅茅に標を結んで占有するように、決して心の絶えることなどあろうかと、私が想うあの人とは末永く結ばれていたいものだ。

巻12-3057 作者未詳

読み下し文


浅茅原茅生に足踏み心ぐみ我が思ふ児らが家のあたり見つ〔一に云ふ、妹が家のあたり見つ〕

現代語訳


浅茅原の茅生に足を踏み入れ、胸をときめかせながら、私の想うあの子の家のあたりを眺めたことだ。

巻12-3063 作者未詳

読み下し文


浅茅原小野に標結ふ空言も逢はむと聞こせ恋のなぐさに

現代語訳


浅茅原の小野に標を結ぶような虚しい言葉でもよいから、「逢おう」と言ってください。この恋の苦しみの慰めのために。

巻12-3196 作者未詳

読み下し文


春日野の浅茅が原に後れ居て時そともなし我が恋ふらくは

現代語訳


春日野の浅茅原に取り残されたまま、いつという時期の区別もなく、私は絶え間なくあなたを恋い慕っています。


巻16-3887 作者未詳

読み下し文


天なるや神楽良の小野に茅草刈り草刈りばかに鶉を立つも

現代語訳


天にある神楽良の小野で茅草を刈り、その草刈り場で思いがけなくウズラを飛び立たせることだ。


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